ハ長調のソナタ楽章(断片)K. 688
de Wolfgang Amadeus Mozart

モーツァルトの《ハ長調のソナタ楽章》(K. 688)は、ウィーン時代の1783年から1784年4月22日のあいだに書かれたとされる、鍵盤楽器とヴァイオリンのための未完の草稿である。現存するのは断片のみだが、28歳のモーツァルトが成熟期ヴァイオリン・ソナタにおける「対等なパートナーシップ」の書法を磨き上げていた、実り豊かなウィーンの一時期と同じ文脈に位置づけられる。
判明していること
K. 688は、ハ長調のクラヴィーア(鍵盤)とヴァイオリンのための未完の《ソナタ楽章》として伝わっており、モーツァルテウムの『Köchel Verzeichnis』項目では真正性が確認済みと記されている。[1] 同じ項目はこの断片をウィーン作とし、作曲時期を1783年〜1784年4月22日の範囲に置いているが、正確な作曲日は特定されていない。[1]
一方で、K. 688を「声楽」や「カノン」と結びつけるデータベース風のメタデータが散見されるが、これは作品の同定・分類(ピアノとヴァイオリンのソナタ楽章)とは整合しない。モーツァルテウムのカタログでは編成とジャンル上の位置づけ(「ピアノ付き二重奏」)が明確に示されているため、この作品をソナタ断片として捉える説明のほうが、理解の土台としてより確かなものとなる。[1]
音楽内容
K. 688は楽章の一部のみが残るため、完成された形式的主張としてよりも、むしろモーツァルトの作業場をのぞき見る手がかりとして聴き(読み)たい断片である。断片的とはいえ「ソナタ楽章」という呼称は、古典派のソナタ的思考に即した設計——現存するページを超える広いスパンで展開されるはずの主題的論理——を示唆している。1784年前後のウィーン時代、モーツァルトの鍵盤とヴァイオリンの書法は、ヴァイオリンを鍵盤の従属ではなく、次第に雄弁なパートナーとして扱う方向へ進んでおり、K. 688もまた、その前進の流れの中にあった可能性が高い。たとえ現存資料の範囲で音楽の論理が途中で途切れてしまうとしても、である。[1]
[1] Internationale Stiftung Mozarteum, Köchel Verzeichnis entry for K. 688 (“Sonata movement in C for clavier and violin”), including status, key, authenticity, and dating (Vienna, 1783–22.04.1784).