マリア・マルガレーテ・マルシャンのためのアリア(散逸または未完)、K. 689
de Wolfgang Amadeus Mozart

モーツァルトの《マリア・マルガレーテ・マルシャンのためのアリア》(K. 689)は、1784年にウィーンで書かれたことが記録に残るものの、現在は散逸してしまった声楽作品である。楽譜は一切現存せず、カタログ上の作品としての痕跡と、ウィーン時代のモーツァルトが歌手たちときわめて実務的に関わり続けていたことをうかがわせる断片だけが残されている。
判明していること
インターナショナル・モーツァルテウム財団は、《マリア・マルガレーテ・マルシャンのためのアリア》K. 689を真正作として、散逸作品(伝承:散逸)に分類し、作成年代をウィーン、1784年7月21日(1784年)としている[1]。現在までに自筆譜、写譜、歌詞の付け方(テキストの当てはめ)、編成のいずれも確認されておらず、初演についても確実な記録は残っていない。
献呈先は一般に、ソプラノのマリア・マルガレーテ・マルシャン(のちのダンツィ、1768–1800)と理解されている。彼女はモーツァルトより一世代若い世代として、ドイツ語圏の音楽界で活動した人物である[2]。1784年のモーツァルトはウィーンの音楽生活に深く関与しており、自身の演奏会のためにピアノ協奏曲を書きつつ、オーディション用、贈答用、あるいはGelegenheitsstücke(機会作品)のように、特定の歌手に合わせた声楽小品が実利的な役割を担い得る職業的ネットワークを培っていた[3]。
音楽内容
K. 689については記譜された音楽資料が一切残っていないため、一次的な楽譜証拠にもとづいて形式、編成、歌詞を述べることはできない。作品名には「アリア」とあるものの、後世の概要では小規模な声楽曲だった可能性が推測されることもある。ただしモーツァルテウムの項目自体は、基本的な同定情報と散逸作品であるという事実のみを伝えている[1]。
[1] Internationale Stiftung Mozarteum, Köchel Verzeichnis entry for KV 689 (status: transmission lost; dating: Vienna, 21.07.1784).
[2] Reference biography for Maria Margarethe Danzi (née Marchand), generally identified with the ‘Margarethe Marchand’ named in KV 689.
[3] Mozart & Material Culture (King’s College London): contextual overview of Mozart’s Viennese musical activity in 1784.