ヘ長調のカンツォネッタ《Ridente la calma》(K. 152/210a)
di Wolfgang Amadeus Mozart

モーツァルトのカンツォネッタ《Ridente la calma》(K. 152/210a)はヘ長調の、独唱と鍵盤のための短いイタリア歌曲として伝わっており、ザルツブルク時代のモーツァルトと結び付けられてきた。だが、この作品の最も際立った点は、通常の意味での「モーツァルトのオリジナル作品」ではないところにある。むしろ、1770年代にモーツァルトが知り、敬愛していたボヘミア生まれのイタリア系オペラ作曲家ヨーゼフ・ミスリヴェチェク(1737–1781)によるアリアを、モーツァルトが編曲/改作したものとして理解するのが適切である [1] [2].
背景と文脈
目録やリサイタルのプログラムでは、《Ridente la calma》はしばしばモーツァルトの小規模な声楽作品の一つとして、声楽と鍵盤のためのカンツォネッタ(簡潔なイタリア語の arietta)に分類され、伝統的に1775年のザルツブルク――19歳のモーツァルトの時期――と結び付けられてきた。だが近代の研究では、この作品の帰属は以前から問題含みだと見なされている。音楽的実体はヨーゼフ・ミスリヴェチェクに由来し、モーツァルトの役割は編曲者/写譜者である(18世紀の音楽文化において、こうした作者性は実務的であると同時に芸術的意義も備えたものとして扱われた)[1] [2].
なぜモーツァルトはこのようなことをしたのだろうか。1770~1780年代には、持ち運び可能なアリアが写譜で広く流通し、歌手――とりわけ名だたるカストラートやプリマドンナ――は新作やパスティッチョに差し込むための愛奏曲、いわゆる「手荷物アリア」を手元に抱えていた。《Ridente la calma》はまさにその生態系に属する。テキスト「Ridente la calma」は後の劇的再利用とも結び付き、旋律の人気が鍵盤伴奏付きの編曲を通じてサロンやリサイタルのレパートリーへと移植される助けにもなった [1] [3].
したがってモーツァルト作品群の中でこのカンツォネッタは、彼の「オリジナルな」ザルツブルク期歌曲様式を示す窓というより、同時代の声楽ヒットを家庭内あるいは半公開の場で演奏・歌唱可能な形に仕立て直す職能的な音楽家としての力量――プロフェッショナルな音楽実務――を垣間見せる存在である。さらに、モーツァルトの音楽世界が濃密なネットワークの中にあったことも思い出させる。彼は様式を吸収し、素材をやり取りし、流行の声とジャンルに応答していたのである。
歌詞と作曲
イタリア語のテキストは、「微笑む平穏」という印象的なイメージから始まる――「Ridente la calma nell’alma si desti(『微笑む平穏がわが魂のうちに目覚めますように…』)」――。これは常套的ではあるが効果的なアルカディア風の情感であり、劇的な朗誦ではなく、やわらかく流れる声楽線を促す [4].
Neue Mozart-Ausgabe/Digital Mozart Editionの文脈では、この作品は歌曲(Lieder)の中に置かれ、“Ridente la calma” … KV 152 (210a) = aria (Canzonetta) と表示されている。これは、演奏上のアイデンティティ(アリア的)と室内楽的な規模(歌曲的)の双方を反映したものだ [5]. 現代の多くのリストでもK. 152とK. 210aという二重番号が維持されており、伝承と分類の歴史が複雑であることを示している [2].
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音楽的性格
帰属問題への不安をひとまず脇に置き、純粋に音楽として聴くなら、《Ridente la calma》は18世紀後半の声楽的魅力の典型である。抒情的で均整がとれ、声にとって歌いやすい。ヘ長調のもと、全体の情感は温かく牧歌的で、長いレガートを紡ぐようなフレージングを促す。鍵盤パートは対等なパートナーというより支持的な伴奏として機能し、この作品のカンツォネッタとしての性格と、私的な音楽作りの場で用いられたであろう事情を裏づけている。
今日この作品が注目に値するのは、まさにこの優雅さと媒介性の混交にある。当時の「モーツァルト」とは、編曲者としてのモーツァルトをも意味し得た――伝える内容を、その趣味によって形作った芸術家である。歌い手にとってこのカンツォネッタは、古典派の旋律線を凝縮して学べる教材となる。息のコントロール、音域全体にわたる均質な発声、そして表現の節度(この「平穏」は、大仰に誇示するのではなく、smile しなければならない)。聴き手にとっては、モーツァルト神話に小さくも耳を開かせる注釈となるだろう。魅力的な小品であり、その来歴は、オリジナルの作曲・改作・そして旋律のオペラ市場をめぐる境界がいかに透過的であったかを物語っている。
[1] Scholarly study on the authorship/history of “Ridente la calma,” identifying it as an adaptation of a Mysliveček aria and outlining its transmission.
[2] IMSLP work page discussing the piece’s former attribution to Mozart and its status as spurious/derived, with score access and catalog context.
[3] Reference overview of Josef Mysliveček, including discussion of “Ridente la calma” as a baggage-aria phenomenon and Mozart’s arrangement (secondary reference).
[4] Program notes and translations providing the Italian incipit and an English translation; notes the doubtful/spurious origins.
[5] Neue Mozart-Ausgabe (Digital Mozart Edition) volume introduction listing “Ridente la calma” as KV 152 (210a) among songs/arias (canzonetta).




